《1532》 胃ろうにしないと追い出される特養 (Q&Aその5) [未分類]

胃ろうは病院の先生が勧めるものだと思ったら間違いです。
施設の管理者(医者以外)が、勧めることが増えています。
それに関する相談がよく舞い込みます。

特養には「胃ろう枠」というものがあります。
特養は、胃ろう患者さんを受け入れる社会的義務があります。
しかし施設によって「定員」があります。

その定員は、看護師さんの数で決まります。
胃ろうからの注入は、看護師さんの管理下で行われます。
介護福祉士さんは、胃ろうの注入は原則できません。

1人の看護師さんが何人の胃ろう注入の見守りができるのか?
10人だったらできるかもしれませんが、100人なら無理。
かくして、看護師数に応じた「胃ろう枠」が自然にできます。

食事介助は、手間暇がかかります。
介護者1人が入所者1人に1時間かかりっきりのことが多い。
人手が足りないと同時に2~3人の食事介助を行うしかない。

介護の現場は、慢性的な人手不足です。
アベノミクスで株価が上がっても介護福祉士の給料は上がりません。
食事介助だけでも相当な人手が必要ですが人材は不足してます。

さらに、食事介助をして誤嚥させた結果、誤嚥性肺炎に至り、
最悪の場合死亡することが充分、ありえます。
これは施設に限らず、病院でも自宅でも、同じことです。

しかし介護施設で誤嚥性肺炎を起こして亡くなった場合、
ご家族が施設側を訴えることがあります。
裁判判例を見ると、なんと、施設側が負けています。

だから施設は訴訟に対応すべく「保険」に入ってます。
医療裁判は有名ですが、介護裁判も増えています。
争いごとになりそうな時は、それを回避しようとするのが人間です。

かくして「食べられるのに食べさせない」という現象が生じます。
昨年8月18日のアピタルにそう書いたら凄い反響で驚きました。
良い悪いではなく、現実です。

以上のような経緯で、施設長は早めに胃ろうを勧めることになる。
早めに決断をして胃ろうをやるなら早く造設したほうがいいです。
しかし「胃ろうは絶対にやりません」というご家族も必ずいます。

すると施設長は「ではこの施設ではみきれません」となります。
もちろん嘱託医も同調しての結論です。
「胃ろうを断ったら出て行ってくれと言われた」とは上記の事情。

そのような経緯で、東京の特養を追い出されて介護タクシーで
尼崎まで25万円かけて移送された認知症の人がおられました。
10年間もお世話になった特養を、本当に追い出されたのです。

嘱託医がそう書いた紹介状を、私はたしかに見ました。
だから「胃ろうを拒否したら追い出される特養」は
日本に存在します。

その患者さんは、私の知っている施設に入られました。
口から食べてしばらくして枯れるように旅立たれました。
「平穏死」です。

本当は認知症の人でも最期まで食べられる、という事実は
あまり知られていないのかもしれません。
食べられるのにどこからか食べることを禁止されるだけなのです。

「そんな特養はけしからん」という声もよく聞かされます。
しかしそんな特養を作ったのは、実は市民の「訴訟」です。
訴えられるのなら「防衛しておこう」が施設側の言い分です。

実は病院も同じことです。
「けしからん!」と怒る人が多いのですが、その根っこには
訴訟恐怖があり、それを作ったのは市民とマスコミなのです。