胃ろうの造設で悩んでいる方から多い質問は、
- 胃ろうはいつか中止できないのか?
- 胃ろうは最後にどうなるのか?
です。
日本老年医学会はじめ各医学会から、
「本人のためにならないと判断される時は撤退してもいい」
といった趣旨のガイドラインが続々と発表されています。
ガイドラインとは専門家集団が示した倫理指針です。
それに従うと、終末期になれば撤退できることになっています。
しかし現実には訴追恐怖のため撤退できないこともあります。
では、「撤退」とはいったい何でしょうか。
- いきなり中止をする
- 徐々に減らしていく
のどちらかだと思いますが、通常は(2)が多いと想像します。
私自身は、これまで数例、撤退したことがありますが、
少しずつ注入量を減らしていきました。
大切なことは、家族と何度も話し合いをすることです。
医者が勝手にするものではありません。
話し合いの中で終末期医療の方向性を決めるべきです。
さて、胃ろうをしているひとの全員が最終的に、
胃ろうの注入を中止するわけではありません。
現実には、胃ろうをしながら肺炎で旅立つ方が多い。
あるいは、心不全や多臓器不全で旅立つこともあります。
胃ろうをすれば無限に生きられる訳では無く、他の理由で
いのちが終わってしまうことが多いです。
従って、意思疎通ができなくなれば撤退、というより、
最後の最後まで、注入している場合がほとんどだと思います。
そして終わりが近いと判断すれば、注入量を撤退することも。
すると、しばらくの間、むしろ元気になることを経験します。
家族も医者も驚くわけですが、省エネモードのなせる技です。
こうしたケースを総称しての「撤退」であると思っています。
すなわち、撤退=死、とは限らず、上手に撤退すれば
そうしない場合よりも、命を延ばすことがあり得るのです。
一昨日、専門家の勉強会で「胃ろうと平穏死」という講演をしました。
胃ろうをしないことが平穏死、という話ではありません。
胃ろうをしている人が撤退することと平穏死の関係の話でした。
「撤退することで命が延びる」とは、意外かもしれませんが、
裏を返せば水や栄養を入れすぎて命を縮めている場合がある。
私にとっては「撤退」とは決してネガティブな意味ではない。
そう解釈するとガイドラインはよくできているなと思います。
願わくば、いろんなケースをビデオにしてもらい国民に周知
していただければ、理解が深まるのではないかと思います。