《1558》 ピック病をアルツハイマー病と誤診 [未分類]

先日、初めての患者さんの往診を依頼されました。
暴れてしょうがないので一度診てほしいとのこと。
家族もヘルパーさんも困っているとの情報でした。

部屋に伺うと、鼻歌が聞こえてきました。
風呂上がりだったので、上機嫌でタオルで拭いていました。
鼻歌を歌いながら、下着を着ていました。

恐る恐る話しかけてみたら、笑顔で返してくれました。
たくさん上機嫌で話してくれますが意味がよく分かりません。
ところどころ単語も聞きとれないし、文意も理解できません。

それでも一方的にヘラヘラ話してきます。
少なくとも、嫌われてはいないようです。
しかしこの方のいったい何が問題なのか?

私は1分もしないうちに、この人がピック病だと分りました。
前頭葉と側頭葉が萎縮して起きるタイプの認知症です。
認知症全体の1割強でしょうか。

その方は時々、スイッチが入ったように怒り暴れるそうです。
万引きで捕まったこともあります。
裁判をおこしてやる! と言っていました。

家族は、「つきあいきれない」という表情で疲れ切っていました。
しかし本人は、多弁で上機嫌。
典型的なピック病だと思いました。

しかし、かかっている認知症で有名なA病院からは、アリセプト
という抗認知症薬が処方されていました。
ピック病にアリセプトは禁忌と説明し、その日から中止しました。

1週間後に訪問した時にはとても穏やかになっていました。
暴れるとか騒ぐとは無縁で、落ち着いた笑顔がありました。
アリセプトを止めただけで明らかに穏やかになったのです。

この人のどこが病気? といった感じです。
ご家族からはたいそう感謝されました。
「名医」だと言われました。

聞くとその人は、B病院にもかかっていました。
健康食品を買うために、家族だけの受診でした。
診察が無いお薬受診が2年間も続いていました。

私は、その夜からその健康食品も止めさせました。
家族は年金生活者であり、お金が続かないからです。
無効なものにお金を払うのはもったいないことは誰でも分かる。

しかし溺れるものは藁をもつかむではないですが、
当事者家族は、まさにすがりたかったのでしょう。
ネットで探してA病院やB病院に流れついたのです。

私がショックだったのは、A病院もB病院も認知症で
有名な病院だったことです。
A病院ではピック病なのにアルツハイマー病と誤診していた。

誤診だけでなく、誤投薬でその人は夜中に暴れていたのです。
アリセプトを止めると、夜中の不穏行動は完全に消えました。

このような経験は、実は何度かありました。
そもそも専門の病院なのに間違うのかな?
いや、専門だからこそ間違うのでしょうね。