《1567》 どの科に駆け込むのが正解? [未分類]

認知症は、どの診療科に行けばいいのか?

実はこれは一番困った質問です。

多くの人は、認知症は精神科または心療内科だと思っていませんか?
あるいは神経内科だと思っている人もいます。
あるいは脳外科だと思っている人もいます。

全部正解です。
これらの科は、すべて認知症を診ています。
ですからどこが一番か? と聞かれると、本当に困ります。

それぞれの専門科の専門医が、認知症をたくさん診ているか、
もっとハッキリ言えば、生き甲斐として診ているかが大切だと思う。
診療科というより「認知症が好きな医者かそうでないか」を重視したい。

精神科には、うつ病が専門の医師や統合失調症の専門の医師がいます。
神経内科だと、脳梗塞が専門だったり、神経難病が専門だったりする。
脳外科だと、脳梗塞が専門だったり、脳腫瘍が専門だったりします。

お医者さんが、はたして自分の専門分野だけを診ているのか、
たとえ専門外であっても、認知症診療が大好きで診ているのかが大切です。
しかしそんなこと、一般の方は知る由もないでしょう。

では、認知症専門医はどうでしょうか?
まさに専門医の前で私ごときが言う立場ではありませんが、
認知症専門医の数がまだ少ないことは、書いておきましょう。

蛇足ですが、私は認知症専門医の試験を受けるため、受験資格に
必要な丸1日の缶詰め講習を2回受けましたが、専門医受験に必要な
土台となる定められた専門医を持っていないため受験できていません。

あと、老年科や物忘れ外来も忘れてはなりません。
老年科は全国80の医学部のうち20にしかありません。
この20の老年科は当然、どこも認知症に力を入れています。

私ごとで恐縮ですが、東京医科大学老年科の客員教授を拝命しています。
正式には、高齢総合診療科といいます。
認知症で有名な先生が何人かおられる診療科です。

私なりに2点、指摘をしておきたいと思います。

ひとつは専門によって認知症の診かたがかなり違う場合があり得ます。
たとえば、トボトボ歩く元気が無いちょっとボケかけた老人を診た場合、

  • 精神科の医師は、うつ病と診断し
  • 神経内科の医師は、パーキンソン病と診断し
  • 認知症専門医は、レビー小体ないしアルツハイマー病と診断し
  • 脳外科医は、多発性脳梗塞と診断する

なんてことがあり得ます。

そんなー? という声が聞こえてきそうですが、そんな時もあります。
先日書いたように診断名は唯一絶対ではなく、医者によって変わったり
また病気の時期によって大きく変わることが、充分あり得るのです。

大切なことは、認知症診療が大好きだという医師に診てもらって欲しい。
認知症医療も日進月歩で、まだ始まったばかりの医学分野だと思います。
本人と家族の訴えをよく聞き、生活を支える視点を持つ医師にかかって下さい。

「認知症と家族の会」の支部など、その地域の口コミが参考になるでしょう。
診療科や専門医資格は大きな目安になるでしょうが、それに加えて
ウマが合って信頼できる医師を、まずは“主治医”として選んでください。

といっても、医者が少なくて医者を選べない地域もあるでしょう。
そんな場合は多少遠くても、実績のある医師に定期的に受診して
普段は近くの“かかりつけ医”で、という場合も増えてくるでしょう。

2つめは、遠くの専門医より近くの“かかりつけ医”にいずれなります。
病状の進行とともに専門医より生活支援、そして距離感が大切になります。
往診もしてくれる町医者の中には認知症が大好き! という医者もいます。

これからの時代、町医者が認知症診療の最初の窓口になってきます。
判断が難しい場合は、専門医と連携しながら診療するのが、
“かかりつけ医”であることを是非知っておいてください。

大病院にいきなり行くと、何千円か上乗せ料金がかかります。
“かかりつけ医”に紹介状を書いてもらってから行ったほうが得です。
“かかりつけ医”とは、こうした窓口になる医者のことです。