《1570》 四つの薬が有効とされているけど…… [未分類]

抗認知症薬として現在、日本では4種類が使われています。

  • アリセプト
  • レミニール
  • メマリー
  • イクセロンパッチ/リバスタッチ

これらのお薬は、認知症を治す薬ではありません。
認知症の進行を「抑える」薬です。
では、「抑える」とはどういうことなのか?

認知症は基本的に非常に緩やかに進行していく病気です。
まあ人間はどちらにせよ誰でも老化が進行するのですが。
自然な老化よりは早い速度で進行するのが、認知症。

グラフに書くとダラダラと右肩下がりの経過になります。
縦軸は日常生活動作(ADL)、すなわち、できることです。
できたことができなくなり、生活に支障をきたすようになる。

その右肩下がりの勾配を、少しでも緩やかにするのが抗認知症薬。
決して治るのではありませんが、治ると思っている人が多いです。
根治薬ではなくて対症療法、といったほうがいいかもしれません。

よく「認知症を治す薬を下さい」と言われます。
気持ちはよく分かるのですが、そんな薬はありません。
薬は脳にゴミが溜まって発症した最終形への対症療法にすぎません。

それを「抑える」ことを実感することは現実には困難です。
なぜなら飲まなかった時と、飲んだ時を同じ人で比較することは、
現実的に不可能だからです。

ですから多くの被検者を無作為に二つの群に分けて、
片方は薬を飲んだ群、片方は飲まなかった群として長期間観察するのです。
何百、何千人のデータを解析して得られた平均値を比較するのです。

統計学的な解析の結果、飲んだ群の方が飲まなかった群より、
ADLなどの低下が緩やかと判断されれば、「抑える」と言われます。
そうした結果が医学論文に載れば、"エビデンス"と呼ばれます。

四つの薬は、世界中から沢山のエビデンスが出たからこそ、
保険適用薬として承認されたわけですが、果たしてそのエビデンスに
何か恣意的な操作が入っているかどうかは、ディオバン事件ではないが不明です。

科学論文の捏造事件が報道されている昨近ですが、
私は、こうした検証が今後よく使われているいろいろなお薬に対して行われると予想しています。
とはいえ、一応は立派なエビデンスに恵まれたからこそ、存在するのです。

アルツハイマー型認知症はアセチルコリンという神経伝達物質が
不足して神経と神経の間の連絡事情が徐々に悪くなった状態です。
四つの薬は脳内のアセチルコリン量を高める働きをします。

いずれにせよ、四つの薬の保険適用はアルツハイマー病だけです。
その中核症状の進行を抑えることに意味があるとされるお薬です。
実際、メマリーは、周辺症状にも効果があると言われていますね。

では四つの薬は、どのように違うのでしょうか?

一つは歴史が違います。
アリセプトは、エーザイという日本の会社で開発されました。
1999年に発売されて以来、12年間この薬しかありませんでした。

一方レミニールは外国の会社が開発し2011年3月より発売されました。
東北の震災の時です。
リバスチグミン(イクセロンパッチ/リバスタッチ)も同時期に発売でした。

メマリーも2011年3月に発売される予定でしたが、
震災で延期になり、同年6月から販売が開始されました。
メマリーは他の薬とは違う作用でアセチルコリン量を増やす薬です。

1999年以降、アリセプトだけの時代が12年間も続きましたが、
2011年以降は、一挙に4つの選択肢に増えたことになります。
ただしメマリーは、他の認知症薬との併用が可能です。

二つめは、作用機序が違います。
アリセプトはアセチルコリン分解酵素を阻害してアセチルコリンを高めますが、
レミニールやメマリーは少し異なったルートから作用するという違いがある。

三つめは、添付文書に書かれている飲みかたが違います。
アリセプトが1日1回ならば、レミニールは1日2回です。
イクセロンパッチ/リバスタッチは、飲むのではなく1日1枚の貼り薬です。

四つめは、厚労省が定めた増量の仕方が少しずつ異なっています。
少ない量から階段を一歩ずつ登るように増量しなさい、となっています。
その根拠は充分に増量しないと効かないから、ということになっています。

すなわち、吐き気や眠気などの副作用があるために少ない量から始めて
ホップ、ステップ、ジャンプと増やしましょうという話になっています。
その間隔は、薬によって少しずつ違います。

アリセプトは、3mgを2週間の後は必ず5mgと定められています。
高度アルツハイマー病には最大10mgまで使えることになています。
レミニールは1日量として8mg、16mg、24mgと増量します。

イクセロンパッチ/リバスタッチは、4.5、9、13.5、18mgと
4段階で増量することになっています。
メマリーも、5、10、15、20mgと増量することになっています。

五つめは、その増量間隔が定められています。
レミニールとイクセロンパッチ/リバスタッチは4週間毎の増量です。
一方、メマリーは1週間ごとの増量と定められています。

六つめは、ジェネリック薬があるかないかです。
発売後10年以上経過しないとジェネリック薬は出ないので
あるのはアリセプトだけで、2011年11月以降、沢山登場しました。

アリセプトのジェネリックは、30社から発売されているそうです。
錠剤以外に、細粒、口腔内崩壊剤やゼりー剤なども登場したため
すべて数えると、100品目以上もあるそうです。

以上、思いつくまま、並べてみましたが、四つの薬は一見同じようで
かなり個性が異なることが分ります。
お医者さんもそれらの個性を覚えるのに大変です。

ではお医者さんは、どのように4種類を使い分けているのでしょうか?

これは極めて難しい質問で、医者によってかなり答えが違うでしょう。

確実に言えることは、
・歴史の上からは、アリセプトが基本薬になっている
・メマリーのみ併用できるが、単独の場合もある、くらいでしょうか。

四つのラインアップが揃って、まだ3年も経っていませんから
長期的効果に関する定説はまだ存在しないと思います。
全国のお医者さんが、それぞれ薬屋さんの講習会で勉強しています。

四つの薬のうちどれを選択するか? という命題も大切ですが、
「何の目的で」、「どんな量で使うのか」が最も大切です。
というのも、副作用がかなり多く強いからです。

結論から言えば、長期的効果云々の前に副作用が多すぎます。
もっと言えば、それに気がつかないまま飲んでいるケースが
相当あるのではないかと思っています。