《1572》 認知症をうつ病と誤診していないか [未分類]

アルツハイマー型認知症は、基本的にうつ傾向になります。
そのため精神科を受診した場合、「うつ病」と診断されて
非常に遠まわりをすることがあります。

まず、「うつ病」と「うつ状態」は違うものです。
「うつ病」のことを、「本物のうつ」と言ってもみます。
「本物のうつ」かどうかを見極めるのは問診で可能です。

「うつ状態」とは、何かショックなことがあり元気が無い状態。
よく聞くとわりとはっきりした原因やきっかけがあるものです。
そうしたことは程度の差はあれ、誰にでもあり得ることですね。

一方、元気が無い、以前好きだったことに興味が無くなった、
朝早く目覚めて午前中は調子が悪いというなら、たぶん「うつ病」です。
「うつ病」であれば、抗うつ剤投与で諸症状は改善するはずです。

しかし元気が無い「認知症のうつ状態」を「うつ病」と診断して、
抗うつ剤を投与された結果、余計に元気が無くなる人がいます。
抗うつ剤は認知症のうつ症状には逆に作用することがあるのです。

ここでいう抗うつ剤とは、三環系ないし四環系と呼ばれるものです。
元気を出させようとして使ったら、もっと元気が無くなってしまった……
一方、最近よく使われるSSRIは認知症の人を元気にする場合があります。

ですから元気が無い高齢者を診た場合、「本物のうつ」なのか、
認知症の「うつ状態」なのかを鑑別することが大切だと思います。
少なくとも、処方するならば、SSRIの方にしたいものです。

蛇足ですが、私は労働衛生コンサルタントおよび産業医として、
数カ所の現場で労働者のメンタルヘルスケアに関わっています。
産業保健の仕事の半分は、メンタルヘルスケアになっています。

つまり「本物のうつ病」や、その予備軍を早期発見することが任務です。
なかには「新型うつ病」と呼ばれる、会社の門を出れば元気が出て来るといった、
よく分からないメンタル不調の方の面談も続けています。

あるいは、大阪を中心にしたGPネットという精神科医と
一般開業医の連携事業があり、そこにも参加しています。
そうした連携の中では、軽度のうつ病は一般開業医が診る時代です。

というわけで常に「本物のうつ」の方を、何人か診察しています。
一つ言えることは、「本物のうつ」は、若年ないし中年層に多く、
高齢者のうつはあまり診る機会がないことを経験的に知っています。

高齢者の「うつ状態」を診れば、まず認知症や甲状腺機能低下症を疑い、
そちらのほうの検査を行います。
実際、その通りであることがほとんどです。

あと、私は「うつ」と「不安」という2つの側面から患者を診ます。
どちらがメインであるのか、納得するまで問診をしつこく行います。
というのも、どちらが主体であるかでお薬がかなり違うからです。

不安が主体であれば、抗不安薬(いわゆる安定剤)を処方します。
たったこれだけで、劇的に元気になる方もおられます。
先日は、そんなレビー小体型認知症の方がおられました。

一見、「うつ」に見えても、よく聞くと「不安」が主体の方がいる。
たいてい生来真面目で、几帳面な方が多いような印象です。
日本人ならではの病態で、欧米や南米には多くはいないと思います。

いずれにせよ、元気が無い高齢者を診た場合、
「うつ病」と誤診しないように、常に自戒しているつもりです。
認知症ではないのかな? と疑うことが癖になりました。

時々、どうもよく分からないな、といった場合もあります。
そうした場合は、「補中益気湯」という漢方薬もよく使います。
これは一番大好きな漢方薬で今の夏バテにもよく使います。

神経質な御婦人で「喉が詰まる」と訴える方もおられます。
そうした方には、「半夏厚朴湯」を使い、著効する時もあります。
自信が無い時はこうして「漢方に逃げる」ことも大切です。

素人だからこそ感性で診ることができる。
いろんな可能性を考慮して、ヘンな問診をすることができる。
「うつ病」の専門家でないからこそ認知症が診れると思っています。

PS)
笹井芳樹先生の突然の訃報で、ちょとうつ状態になっています。
私の四つ年下の天才を失った悲しみの中、書いています。

アピタルでは、敢えてSTAP細胞について一切書いて来ませんでした、
いろいろ思うところはあるのですが、それは個人ブログに書きます。

今はただ、笹井先生のご冥福をお祈りするだけです。
天候不順もありますのでみなさま、気をつけてください。