《1575》 ドクターコウノの功績 [未分類]

コウノメソッドという名前は知っていて書かれた本も読んでいました。
そして河野和彦先生と初めてお会いした時の様子は、7月151617
のこのブログで書きましたが、少し追加してみます。

河野先生が実践されている認知症医療を私なりに要約してみました。

  1. 認知症薬はさじ加減が大切で、副作用を避けるため家族が微調節する
  2. 認知症は症状からの診断が大切で、そもそも誤診しない診断学を重視
  3. 陽症、陰症という漢方的な見方が大切で、それに応じた薬を投与する
  4. 患者か介護者のどちらかしか救えない時は、介護者救済を優先する原則
  5. 安全で的中率の高い処方術を、惜しげもなくHPや書籍で公開している

私にとっては、目からウロコばかり。
以前から「そうかな?」と思ってきたことが、河野医師に背中を押された感じ。
河野医師が書かれた本を読みあさりながら、日々、試行錯誤しています。

ちなみに一昨日も地域の介護職の勉強会で、こうした思想を解説しました。
考えてみれば当たり前のことですが、これまでの認知症医療界には
無かった考え方が、多分に含まれています。

河野先生は「時には画像診断は無視してもいい」と言います。
脳の萎縮が高度でも、あまり症状が出ない人もいれば
萎縮は軽度でも、さまざまな症状で困っている人がおられるからです。

つまり、病型を探すことより症状をしっかり見ることが大切だと。
中核症状でも周辺症状でも、医療の力で改善できる部分は改善
してあげたい、その想いだけでやってこられたのだと思います。

「認知症を治して欲しい」ではなく、
「どんな症状を治して欲しいのか」に耳を傾け、健康食品も含め、
既存の薬など症状に合ったものを何種類か使われます。

基本的に併用療法です。
漢方薬は何種類かの合剤ですが、コウノメソッドも生薬を含む
まさに合剤とも呼ぶべき複数薬剤の併用療法と言えるでしょう。

すべては、患者さんの笑顔のための処方術です。
医者の自己満足のための処方ではありません。
時には従来のエビデンスとは関係無く、感覚的に治療されます。

アルツハイマー型認知症は有名ですが、ピック病、前頭側頭型認知症
や脳血管性認知症、その他半分の認知症に光を当てた功績も大きい。
私も最近、アルツからピックに診断が変わった人を診ました。

「ピック病を改善できれば一流」と言われ、私も実践しています。
またレビー小体型認知症に関しても、多くの示唆を頂きました。
脳血管性認知症についても、治療を見なおす機会を頂きました。

どれもこれも、目の前の患者さんが生きた教科書です。
コウノメソッドには、まだエビデンスはありません。
たとえあったとしても、変化していくものでしょう。

つまり、これまでの認識より認知症はずっと「動的」なのです。
だから診断名は病状とともに変わるし、変わって当たり前。
その時の症状にフィットする処方術ができるのがコウノメソッド。

そしてそうした診断学や治療学を、市民にも公開した点も凄い。
つまりコウノメソッドとは、医療者だけのものではなく、
患者さんや市民のものである、という考え方なのです。

医者対患者という一種のヒエラルキーを越えています。
彼は「患者さんに教えられてここまで来た」とか、
「一例でも例外を見ればそこから考え直す」とさりげなく言います。

しかし、それは臨床医としてとても大切なことで、私も日々「なぜ?」
の連続で、そうした疑問を抱くエネルギーを無くしたらもはや医者
では無い、引退した方がいいと思っています。

信用していいのかよく分からなくなった論文に固執するのか、
目の前の患者さんや家族の訴えに従うのか迷う場合があります。
たとえば、アリセプト3mgを5mgに増量するのか否かです。

河野先生はもちろん、家族の訴えで処方せよ、と言います。
専門家や保険者は論文どおりに増量処方せよと言いますが無視。
あるいは、レビーにはアリセプトは1mgから使えと言います。

レビー小体型認知症の薬剤過敏性も、河野先生はよく強調されます。
市販の風邪薬が効きすぎて寝込んでしまったことがあるかです。
そうしたきめ細かな処方術を言っている医者は居なかったはず。

つまり医学会のEBMや権威をバックにした医療と、
経験知から得られたNBMとも言える医療があります。
どちらを選ぶのかは、患者さんとご家族が決めることです。

河野医師は最近「認知症の7割は治せる」という本を書かれています。
それは「認知症で困っている症状の7割は医療の力でなんとかできる」
という意味であると私は解釈しています。

つまり短期的には「なんとかできまっせ」というのがコウノメソッド。
長期的には、既存の4つの薬と健康食品を組み合わせて対応します。
その処方術が固定化されていないのがコウノメソッドの特徴でしょう。

私はこれまで、認知症のお薬にはさほど期待していませんでした。
正直、信じていなかったと言ったほうが正確かもしれません。
しかし河野先生の話を聞き、医者の存在意義を考え直しています。

長期的に見て「認知症を治せるか?」と聞かれたら、いくら河野医師
でも、多くの場合、それは無理だろうと思います。
アルツハイマー病だと、誰が診てもあまり変わらないかもしれません。

そう、認知症は治せません。
しかし、かなりの期間、困った症状は何とかできそうです。
そうした医療介入の成果をなんと表現すればいいのでしょうか。

私は「認知症はとめられる」ではないかと思っています。
河野先生の「治せる」とは少しニュアンスが違うような気がします。
「治せなくてもとめられたらいい」というのが、私の考えです。

とめられて笑っていれたら、外出できます。
旅行できます、美味しいものを食べられます。
人生を充分楽しめます。

医療が無力であったり、むしろ有害の場合があまりにも多かったのが
これまでの認知症医療であったように思います。
しかしこれからは河野医師の実力で大きく変わるような予感がします。