《1578》 中核症状と周辺症状、どちらを重視する? [未分類]

認知症の「中核症状」とは、記憶障害や見当識障害などのことです。
一方、「周辺症状」とは、妄想や徘徊や暴言・暴力などのことです。
英語でBPSDともいいます。

アリセプトなどの抗認知症薬は中核症状の悪化を緩やかにするとされるお薬です。
一方、抑肝散や抗精神病薬は、周辺症状を抑える薬です。
研修医から「中核症状と周辺症状のどちらを重視すべきか?」という質問を受けました。

医者は通常、中核症状の方を重視します。
しかし中核症状の進行を抑えることはできないので、「治せない」となりますが、
医者の本能とプライドで何とかしようとアリセプトを投与してどんどん増量します。

あるいはメマリーを併用しようとします。
これは、全身に広がったがんに最後まで抗がん剤で闘おうとする医者とどこか似ています。
医者の性(さが)と言ってもいいでしょう。

私自身は、中核症状より周辺症状を重視しています。

たとえば記憶障害がかなりあっても、普通に会話が楽しめて、
ニコニコして家族と海外旅行まで楽しんでいる方は、いくらでもおられます。
つまり周辺症状さえ目立たなければ、できないことだけを誰かに手伝ってもらえばいい。

あとはまったく普通に生活できて、人生を楽しめることを町医者として知っているからです。

しかし現実には、周辺症状でお困りの家族や施設の職員が大勢おられます。
その周辺症状が、真に認知症による症状であれば仕方がない(?)のでしょうが、
実際には抗認知症薬の副作用であることがかなりあることは何度も書いてきました。

主治医はそれにまったく気がつかず、抗認知症薬を増量しながら
抗BPSD薬も沢山使うというケースを沢山診てきました。
おかしいですね。

中止すべきなのに増量するなんて。火に油を注いで、
後でヘリコプターから放水するような医療を沢山見るうちに、
どう考えてもおかしいものはおかしい、と思い至りました。

やはり、丸ちゃんの言う通りだと。

本当は、中核症状や周辺症状なんて言葉なんてどうでもいいのです。
要は、本人も家族も笑って暮らせるかどうか。
その一点のみのために医者が存在すると思っています。

笑えなかった状態を、笑える状態に医療の力でできたら、
家族はそれを見て「あの医者が治してくれた」と言ってくれるのでしょう。
ドクターコウノが言う「治す」とは、そのような意味ではないかと思います。

なんだかアリセプトの悪い側面ばかり強調したかもしれませんので
名誉挽回ではないですが、ここで10mgの著効例も紹介しておきましょう。
先日、介護施設に入所して来られたばかりの80歳代の女性です。

ニコニコしていて穏やかでほとんどの質問にちゃんと答えられます。
ただ日づけになると分らない程度の軽いアルツハイマー型認知症です。
ただ、アリセプト10mgを飲んでいました。

3年前に認知症を発症して、専門医がアリセプトを開始しました。
5mgで明るく元気に回復した状態が2年以上続きました。
しかし、1年前から被害妄想が激しくなり、警察に10回以上電話することがありました。

そこで専門医は、アリセプトを10mgに増量したそうです。
高度アルツハイマーとは言えないので、本来は10mgの適応ではないと思います。
しかし主治医はそう判断したのですが、それがピタッと当たった(?)ようでした。

ご家族によると、10mgにしてから被害妄想が治まり、
比較にならないほど穏やかになったと、とても感謝しておられたので、私も10mgを継続することに。
このように、10mgで中核症状のみならず周辺症状まで改善した例もあります。

本当は中核症状と周辺症状に無理やり分ける必要は無いような気もします。
両者は表裏一体であり、長い目で見ると連動することが多いようです。
しかし、一応こうして分けて書いた方が、分りやすいのかとも思います。

いずれにせよ、周辺症状をできるだけ少なくすることが、
医療や介護の存在意義でしょう。

そういう思いからも、抗精神病薬に頼ってしまうことが現実によくあります。
どこか違っているのかな、なんて思いながらも……。

日本老年精神医学会が行った1万人の調査結果を見て、「やっぱり」と思いました。
統合失調症などに用いる抗精神病薬を使った場合、
飲み始めてから3~6カ月後の死亡率は、使わない人のなんと2倍も高かったというのです。

2012~2013年にかけて全国の約360医療機関で診療を受ける
認知症高齢者(平均82歳)で、抗精神病薬を使う約5000人と、
使わない約5000人を登録して、半年間追跡調査したそうです。

その結果、使う群と使わない群の全体を比較すると、死亡リスクに差は認めませんでした。
しかし、抗精神病薬を飲み始めたばかりの約450人を抽出すると、
開始11~24週の間の死亡率は3.7%で、飲まない人の1.9%より高く、死亡リスクが2倍でした。

米国食品医薬品局(FDA)も2005年に、
認知症の人に使うと死亡リスクが1.6倍高まると警告しています。
日米から同様な結果が既に報告されているのです。

荒井平伊・順天堂大教授は、「開始から半年間は注意した方がいい。
使わざるを得ない時も、最小限の期間に抑えるべきだ」と指摘しておられます。

以上の調査結果は、認知症診療において非常に重要な警告だと考えます。
抗精神病薬の使用は、死亡リスクと引き換えになるのです。
どうしても投与せざるを得ない位に病状が悪化していたのかもしれません。

いずれにせよ、これは看過できないエビデンスです。
と書きながらも、今日も新たに、抗精神病薬を処方しています。
しかし勧告を常に念頭において、最小限の期間にするつもりです。

コウノメソッドの教えに従うと、抗認知症薬同様、
抗精神病薬も「さじ加減が必要」となります。
知れば知るほど慎重に使わないといけないのが、抗精神病薬だと思います。

中核症状と周辺症状。
正直、嫌な言葉です。
上から目線だからです。

使うのであれば、両者の比率を常に考えなければなりません。
介護者は、どこに困っていて、どう改善してくれと望んでいるのか。
その要望に応えるためには、どの程度の比率なのかをイメージすることが大切です。