《1609》 在宅医療が進まない本当の理由 [未分類]

全国、ほとんどの都道府県で在宅医療の講演をしました。
何度も何度も呼んで頂き、光栄ですが、毎回どこでも同じ質問が出ます。
特に一般の方からは、同じことを聞かれます。

「どうして在宅医療が普及しないのか?」
「どうして在宅医療に取り組む医師が増えないのか?」
「どうして医学教育で在宅医療を教えないのか?」などなど。

様々な回答があるでしょう。
私もこのテーマだけで1時間でも話ができます。
しかしここでは、単純に答えてみます。

在宅医療が普及しない理由は、「しんどい」からです。
昨日の記事に書いたように、在宅医療はしんどいです。
私は特に要領が悪いのか、しんどい仕事だと思います。

24時間365日、年中無休で300人以上の患者さんの
ファーストコールを取っています。
昨年は、90人の看取りがありました。

300床の病院の当直を、365日やっているのです。
当直だけでなく、昼間の仕事ももちろんやっています。
本来なら労働基準法違反です。

しかし、事業主である私だけは、労働基準法の適応外です。
過労死しても、犬死に、自己責任です。
私なら、みんなに、笑われるでしょう。

訪問看護師が増えないのは、夜間の電話当番があるからです。
しばらくは頑張れても、2~3年で多くはバーンアウトします。
あるいは旦那さんから怒られて辞めていく訪問看護師もいます。

お盆に台湾に行った時に、台湾の在宅医療は厚労省の管理が厳しすぎるように感じましたが、
1点だけ感心しました。
それは夜間対応は、すべて病院の医師や看護師がすることです。

つまり、同じ医師や看護師が24時間365日働くことはありません。
病院でも夜間は主治医ではなく当直医が対応することは普通ですよね。
在宅もそれと同じ考えで、運営されていました。

長い目で考えると、そのほうがいいのかなと思い至りました。
もちろん日本でも数人の在宅医が連携し、当直にあたっている例がある。
医師会が中心となったり、同一法人内で医師が協力しているケースです。

医師が何人かいるクリニックであれば、同一法人内での完結が可能です。
しかし現実には、そうしたシステム構築にも様々なハードルがあります。
私自身忙しくて、そうしたシステムを作る暇も知恵も無いまま来ました。

この春から、病院に「地域包括ケア病棟」という病棟が新設されました。
患者さん13人に看護師さん1人が配置されているので13対1病棟です。
さっそく「地域包括ケア病棟協会」も設立され取り組みが広がっています。

この病棟は、在宅患者さんのバックベッドです。
肺炎で入院しても数日で在宅に帰すための病棟。
そんな病棟が各地域に沢山あったらいいですね。

そして願わくば、夜間の緊急往診は、その病棟の医師や看護師が
受けてくれたら、どんなに助かるか。
そんなシステムがあれば在宅医療に取り組む医師が増えるかもしれません。