《1622》 「ベスト・インタレスト」という考え方 [未分類]

日本においてリビングウイルを表明している人は0.1%。
人生の最終章の医療を自己決定している人は、たった数%。
裏を返せば日本人の9割以上の人は誰かに委託しています。

イザという時になって、人生の最終章の医療をどうすればいいのか、
誰もよく分からない場面が、結構よくあります。
たとえば、身寄りの無い独居の認知症の人が衰弱してきたときなど。

  • 入院した方がいいのか、しない方がいいのか
  • 施設に入所した方がいのか、在宅がいいのか
  • 胃ろうをした方がいいのか、よくないのか

友人・知人たちやケアマネやヘルパーさん達とケア会議を開き、
その人の人生の歩みや考え方を聞いて検討することがあります。
いわゆる「そのひとらしい生き方」を、みんなで推定します。

実は、「そのひとらしい生き方」を模索することを
イギリスでは「ベスト・インタレスト」と言います。
イギリスでもそのようなことが、よくあるのです。

イギリスでは2005年に意思決定能力法ができたことを述べました。
その基本理念とは「本人のベスト・インタレスト」という思想です。
ただ、それを言葉で定義することは困難であるとも言われています。

その代わり、以下のチェックリストが示されています。

1 本人の年齢や外見、状態、ふるまいによって「ベスト・インタレスト」の
  判断を左右されてはならない。
2 「ベスト・インタレスト」と特定に関係すると合理的に考えられる事情に
  ついては、全てを考慮したうえで判断しなければならない。
3 本人が意思決定能力を回復する可能性を考慮しなければならない。
4 本人が自ら意思決定に参加し主体的に関与することを許し、促し、また
  そうできるような環境をできる限り整えなければならない。
5 生命維持に不可欠な治療を施すことが本人の「ベストインタレスト」に
適うか否かの判断が問題になっている場合には、絶対に、本人に死を
もたらしたいとの動機に動かされてはいけない。
6 本人の過去および現在の希望、心情、信念や価値観、その他本人が大切にして
いる事柄を考慮に入れて「ベスト・インタレスト」を判断しなければならない。
7 本人が相談者として指名した者、本人の世話をしたり本人の福祉に関心を
  持ってきた人々、任意後見人、法定後見人等の見解を考慮に入れて
  「ベスト・インタレスト」が何かを判断しなければならない。
(Section 4 (1)-(7) of the Mental Capacity Act 2005)

以上、「ベスト・インタレスト」を探し求める時の原則が書かれています。
こうして導き出された「ベスト・インタレスト」に従って、
権限を行使することが求められ、かつ、認められているのです。

実は日本老年医学会人生の最終段階の医療に関する立場表明を行っています。
その中で「本人のためにならないと判断される時は」という文言があります。
実は、これはとても深い言葉だと思います。

私なりに解釈すれば、「その人をよく知っている人が集まって、その人の考えや
生きざまや、もし今、意思決定できるならばどう考えるのだろうか、
それをよく勘案しましょう。もしその人の意向に反する時は……」という意味だと思います。

すなわち、これは、英国の「ベスト・インタレスト」と全く同じことを
言っているような気がします。
ですから上記の7つの要件は、「そのひとらしさ」の推定要件でもあるのです。

ただイギリスは法制化されていますが、日本は医学会のガイドラインです。
法律というからには、厳密な線引が求められるので厳しい要件がつきます。
しかしガイドラインは倫理指針ですから、そこまでは要求されていません。

意思決定の代行とは、本当に難しい命題と思います。
しかし、本気で取り組まないと、大変な時代になるような気がします。
しかし国会での議論は9年間、ほとんど進んでいないのが現実です。

昨日は広島県福山市で講演しましたが、広島県は行政と医師会が一緒になって
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)に熱心に取り組んでいる地区です。
ここでは、ACPのことを「こころづもり」と言い変えて、啓発しています。

私は、このACP運動の中に、
「ベスト・インタレスト」も含まれる気がしました。
ACPとは、「その人らしさ」を探す作業も含むように、思えてきました。