《1634》 早期胃がん → 2年半後に旅立ったケース [未分類]

毎日、外来と在宅でさまざまながん患者さんを診ています。
一番多いのが、胃がんです。
日本人の国民病です。

以前、86歳の方が胃が痛いというので、ある病院で胃カメラを
受けたところ、写真のような2cmの胃がんが見つかりました。
高齢者に胃がんが見つかることは、珍しいことではありません。

病院での診断は、早期がんと進行がんの間くらいとのことでした。
紹介状には、「Ⅱc類似進行がん」と書いてありました。
Ⅱcとは早期胃がんを表す言葉で、早期よりやや進んだ段階です。

組織型は高分化型がんで、肺と肝臓には転移がありませんでした。
この方は足腰が弱り、外出もままならず、おまけに腹部大動脈瘤
もあるため手術を希望せず在宅療養を希望されて私に紹介された。

早期の胃がんを、何も治療をせず経過観察することになりました。
週1回の訪問診療と、週2回の訪問看護を続けました。
年単位の在宅になったのでずいぶん仲良くなりました。

腫瘍マーカーは、CEA、CA19-9とも正常でした。
その後、時々、測りましたが、2年間くらい正常が持続。
2年後から、CA19-9のほうが500まで上昇した。

しかし、もはやCTや内視鏡などの検査は希望されませんでした。
在宅医療で、ずっと診ていました。
結局、2年半後に徐々に食べられなくなり、自宅で旅立たれました。

麻薬は最後まで不要で、枯れるような最期、平穏死でした。
亡くなる1カ月前のCA19-9は3700まで上昇していました。
この方の臨床経過をまとめると、以下のようになります。

  1. 発見時は、早期胃がんないし少し超えた程度の分化型胃がんを自然経過に任せたところ、2年半後にがんで亡くなられた。
  2. 発見時は早期がんであったが、がんが進行し、死に至った。
  3. 本人も家族も納得した、平穏死、満足死、大往生であった。

もし発見時に手術をしたらがんが完治した可能性もかなりありました。
しかし、合併症で苦しんだり、その後再発して苦労したりしたかもしれません。
なにより胃を失えば、残りの人生おいしく食べることは難しくなります。

私もこれで良かった、と心から思いました。
そして高齢者の早期胃がんも、自然経過に任せると2年半程度で
亡くなることがあることを、この患者さんに教えていただきました。