《1638》 肝臓がんを放置した76歳 [未分類]

76歳の男性が奥さまと初めて受診されました。
年の割に若く見える明るく元気な方です。
遠くから肝臓がんの相談で来られました。

お酒が好きな方で、よく飲まれてきたようでした。
近所のお医者さんで肝硬変と診断されてフォロー
されていましたが、がんが見つかったそうです。

大きな病院で「根治可能な肝臓がん」と診断されましたが
約1年間放置してから、ある日、私の外来に来られました。
1通の手紙を渡されました。

がんであること、治療の可能性が充分あることは分っているが
放置して毎月の血液検査だけをお願いしたいという趣旨でした。
すぐにエコー検査をしたら、2センチの肝臓がんがありました。

血小板は8万で、PIVKAⅡは60と正常値を少し超えたばかり。
がんは一カ所だけなので根治手術が可能と思い私も手術を勧めました。
しかし夫婦そろって決意は固く、一切首を縦に振りませんでした。

なんとこの方は私の本を読まれてクリニックに来られたと。
どの本を読まれたのか知りませんが、私は「がんを放置せよ」
なんて本を書いたことが無いので、何かの間違いかと思いました。

手紙には尊厳死のようなことが書いてあったので、慌てて
「尊厳死は末期の話であって貴方は末期ではない」と説明しました。
いずれにせよ、絶対に治療はしないが通院はすることになりました。

毎月、判で押したように遠方から夫婦でやって来られました。
時々、エコーや血液検査をしました。
最初の半年間は、何度もしつこく手術を勧めましたが強く拒否。

腫瘍マーカーの数字は、少しずつ上がりましたが、元気でした。
そのうちに私も、説得することを諦めました。
1カ月に1回、5分の世間話程度にすぎない診察が続きました。

このように図らずも、がんを放置する患者さんとご縁ができました。
そしてこの方の肝臓がんの自然経過を見せて頂くことになったのです。
決して放置療法本の影響ではなく、そのような生き方を選択された。

果たして、あれから1年、2年と経過しました。
今、どうなっているのかは明日、ご紹介します。

PS)
台風は、予測通りに昨夜21時前に大阪に上陸しました。
1日前の予想との誤差はたった15分で高い精度でした。

一昨日、群馬県の講演会場でとても驚いたことがありました。
昨日の記事を書きあげた直後に会場入りしたのですが、
ある一人の女性が、控室に挨拶に入ってこられました。

なんと、記事に書いたばかりの方の実の妹さんでした。
尼崎の兄と栃木県の妹。手紙を渡されました。

しかも偶然、お兄さんのことを書いた直後の思いがけぬ出会い。

あるいは金子哲雄さんの話をしようと思ったら新聞の朝刊に
奥さまの稚子さんの大きな記事が掲載されていて、驚いたり。
いろんなシンクロニシティに包まれながら連休を過ごしました。