《1724》 治癒証明書の「たらい回し」 [未分類]

インフルの「治癒証明書」を書いてほしい。
そんな患者さんが、混雑する外来に飛び込んできました。
お正月に、急病診療所でA型インフルと診断されたと。

既に5日経過して、症状もほぼ消えているので出勤したい
のですが、会社から「治癒証明書」の提出を求められたと。
急病診療所に行ったら「そんなもん書けない」と言われたと。

たしかに、最初に診た医師ではないので書けないのでしょう。
そもそも「治癒証明書」というものは存在しませんが、会社
が万一の時のために、持ってくるように要求するようです。

要は、万一の責任を医療機関になすりつけたい意味もある?
裏を返せば、まだ治っていないのに出勤して職場のみんなに
うつされたら困る、ということなのでしょう。

学校では学級閉鎖もあるのでそのような書類を持ってきます。
完全治癒という判定は本来は難しいのですが、社会的な意味
だと考えてシブシブ書いています。

以上は学校の話で、社会人にはそんな規定はないはずです。
罰則規定も無いので、努力目標のようなものでしょうか。
断ると患者さんが出勤できないので、書くことにしました。

一見さんの患者さんだったら書きませんが、その方は
半年前に風邪で一度かかったことがある人でした。
もし断ると、「治癒証明書のたらい回し」と言われます。

急病診療所の簡易検査の結果を持参されたので、正月に
インフルに感染されたことは間違いないと判断しました。
そして当院来院時には症状が無いので「略治」と判断しました。

その人は「治癒証明書」のためだけに来られたわけです。
どうして私がそんなリスクを負わねばならないのか?
拒否するという選択もありました。

しかしその方は一見さんではなく、半年前に一度来院されている。
もしかしたら、私がかかりつけ医だと思って来たのかもしれない。
では、私がかかりつけ医であると判断したので、書きました。

診断書だと当院では2000円かかりますが、治癒証明書で
そんな代金がかかると、また新たな問題が生じてます。
だから当院では治癒証明書の代金は100円にしています。

ノロウイルスでも同様なことがあります。
「ノロ」と一言口にした途端に、職場は大騒ぎになります。
だから完全に治ったことを書いてもらわないと出勤できない。

しかしノロウイルスの検査には、高齢者や基礎疾患を有する人を
除いて健康保険が効かないし、結果が出るまで時間がかかります。
さらにノロウイルスは、1カ月間も排出されることが分かっています。

それでも、医者の許可が必要だと、会社の上司は
ことの責任を医療機関に押しつけてきます。
断ると、患者さんは泣きそうになります。

ノロウイルスを含めて感染性胃腸炎(吐き下し)は、症状が治まれば
手洗いをしっかりしながら、普通に社会活動して構わないと思います。
しかし、なぜわざわざ「治癒証明書」を要求してくる人が絶えないのか。

出勤可能かどうかの判断は、本来は会社の産業医の役割のはずです。
50人以下の中小零細企業は地域産保センターに問い合わせてもいい。
いずれにせよ、会社側の判断で就労させるのが正しい考えのはず。

インフルで大混雑する中、こうした「治癒証明書」でまた大混乱に。
その間に、院内感染で被害を被る人が出てくるというジレンマも。
できれば、国民一人ひとりが最低限の感染症の知識を持ってほしいです。