《1734》 東洋医学は右脳の医学? [未分類]

私は現在、30冊以上の本を出版していますが、記念すべき第1冊目は「町医者冥利」という本です。私の原点とも言える記録です。

この本の最後の方に、今から19年前の1996年に兵庫県相生市で話をした講演録が掲載されています。

本が絶版になっているため、現在では読むことは困難だと思います。数日間にわたり、この講演録を分割してご紹介します。

19年前の講演録ですが、現在となにも変わっていません。悲しむべきか。喜ぶべきか、よく分かりませんが、とにかく数回に分けてご紹介します。

約20年前の文章が、誰かの役に立てば幸いです。

(編集部注 : 一部の表記などをあらためています)

東洋医学は右脳の医学?

先程、右脳、左脳の話をしましたが、西洋医学というのは分析の医学ですけれども、脳でいうと左脳を使った医学ですね。一方、東洋医学というのは調和とか、そういうことを考える医学ですから、右脳の医学です。

右脳も左脳も、両方ないと人間はうまく生きられないように、医学も西洋医学と東洋医学の両方がないと本当の意味でのよい治療はできません。これからは1人の医者が、西洋医学と東洋医学の両方を身につけて、うまく使いこなしていく、そういう訓練が必要です。私自身も、これから両者をバランスよく勉強していかなくてはと思います。

私は駆け出しの開業医ですが在宅医療も行っており、現在10人ほどがんの末期であるとか、寝たきりであるとか、そういう患者さんを受け持ち、訪問診療しています。その中で感じたエピソードを最後にひとつ紹介したいと思います。

その患者さんは92歳になられる男性ですけれども、4年前にある病院でかなり進行した胃がんが見つかり、その時点ですでに腰の骨に転移していました。そのため腰が曲がり、歩きづらいため在宅で診ています。前の主治医からは抗がん剤を投与され、あと半年の命と宣告されていました。主治医が私に変わった時は食事がなんとか食べられている状態でした。

しかし3年たってもまだ元気にされていて、そのため抗がん剤が少し効いているのかなとも思いましたが、今春、抗がん剤を思い切ってやめてみました。するとみるみる元気になり、肌の艶もよくなって食事の量も増えて、がんの転移で曲がった腰が、不思議なことにやや伸びて姿勢もよくなり、散歩も以前よりできるようになりました。

最近ではこの人が本当にがんの末期状態かなと疑うぐらい元気になってきました。要するに、その方はがんと共存されているんです。

このような例は、高齢であるからかもしれませんけれども、現実にはあります。末期状態とはいえ5年もがんと共存して、しかも本人は病気を何とも思わずケロッとしている。淡々と毎日を楽しんで生きておられる。

その方の性格は非常にマイペースです。例えば私が約束の時間に遅れると、そそくさと先にお風呂に入っています。それも1時間も入って、きれいに体を磨きまくります。足の爪も92歳の人のとは思えないくらいきれいです。本人は多分意識していないでしょうけれども、生活のリズムをとても大切にしているようです。

こういう90歳以上の超高齢の患者さんをよく観察していますと、長生きの秘訣は「マイペース」にあるのではと思います。

雑多な話になり、申し訳ありません。震災の話に始まり、高齢者の社会参加、脳の話、そして東洋医学の話をさせていただきました。長い時間、ご清聴ありがとうございました。

(兵庫の祭り ~ふれあいの祭典~ 1996年9月26日 記念講演より)