《1765》 抗がん剤の相談が、緩和医療の話に [未分類]

昨日は、人工栄養を巡る混乱について書きました。
胃ろうは、最も優れた栄養法です。
鼻から管が可哀そうなので『胃ろう』なのです。

さて今日は、抗がん剤に関する相談の話です。

78歳の父親の肺がんに対して、専門医から抗がん剤を勧められて
いるが、どうすればいいのか、という相談を持ちかけられました。
忙しい外来診療の合間に、よくこんなややこしい相談が舞い込みます。

私の抗がん剤に関する書籍を読んで、遠方から来られたので、セカンド
オピニオンを断ることもできず、黙って話を聞いていました。
どうも骨や脳などにも転移しているようです。

子供たちは、抗がん剤治療を望んでいますが、肝心の父親は
軽い認知症もあるし、入院や治療は希望していないとのこと。
よく聞くと、寝たきりに近い状態だそうです。

話だけでは要領を得ないので、78歳の男性を訪問することになりました。

自宅にうかがうと、衰弱してガリガリになった高齢男性が、
うなり声を上げながらソファーに横たわっていました。
想像したよりも、状態が悪い……

しかし子供たちは、抗がん剤治療でなんとか治したいと思っています。
私もつられて、遺伝子検査やイレッサのお話までしてしまいました。
子供たちは、がんセンターでのPETや頭部のMRIで頭がいっぱい。

しかし最優先の問題は、全身骨転移の痛みに対する対応が皆無なこと。
なにせ本人は、全身あちこちを痛がって夜も眠れない、とのこと。
緩和医療が皆無のまま、抗がん剤治療の話だけされていたのです。

その日から、急いで在宅緩和ケアを始めました。
麻薬を少量から始めて、徐々に増量して除痛を図りました。
短期間にその痛みを取る麻薬の量を探しました。

1週間後には、痛みはほぼ管理できた状態を得ました。
しかし、もはや食事がほとんど入らなくなっていました。
麻薬の副作用というよりも、肺がんの自然経過に見えました。

結局、在宅医療を開始して2週間後に自宅で旅立たれました。

余命2週間の患者さんに、抗がん剤はしても緩和医療はしない
それががん拠点病院というところでしょうか。
家族には、在宅医療の「ザ」の字も教えてくれていませんでした。

「医療否定本」が飛ぶように売れるはずです。

もっと早く出会えていたら……
そう思うことがよくあります。