《1807》 無治療のステージIV肺がん [未分類]

昨日は、とっても嬉しいことがありました。
70歳台のステージIVの肺がんの男性患者さんの、当院での
3カ月間の臨床経過に関してご紹介します。

昨年12月に、ある病院で肺がん(腺がん)が見つかりました。
副腎に大きな転移巣も見つかりステージIVと診断されました。
主治医は抗がん剤治療を勧めましたが、強く拒否されました。

いわゆる“放置療法”になるのでしょうか。
別に医療否定本の影響を受けているわけではないのですが、
自分の哲学というか生き方として、そう自己決定されたそうです。

しかし、主治医はそんな気持ちをまったく理解してくれないどころか
「抗がん剤をしないとすぐに死ぬぞ」という脅しのような言葉しか
言ってくれないと愚痴りながら、本で知った私に相談に来られました。

私は、その人のお考えをじっくり聞いたうえで

  • 治療をしないという自己決定を私は支持し応援します
  • 将来の緩和ケアや在宅医療は任せて下さい

と言いました。

たったその一言だけで、驚くほど喜ばれました。
その場で、がん専門病院への通院をやめました。
そして私に最期まで診てほしいと、何度も話されました。

その後、2週間ごとに顔を見せに来られているのです。
現在、食欲旺盛で、痛みもまったくありません。
CEAという腫瘍マーカーをフォローしています。

12月が486(正常は5以下)でしたが、
1月末には360に下がり、そして
3月末の採血ではなんと、38まで低下していました。

10分の1以下になったのです!

3カ月間に私がした医療行為といえば、たったひとつだけ。
補中益気湯という漢方薬を、免疫療法として飲ませました。
多くのがん患者さんに飲んでいただいています。

一方、患者さんの日常生活で変わったのは1日の生活リズムです。
病院への通院が無くなったので時間がたっぷり余るようになった。
自分の名前をつけた農園を始めて、せっせと京野菜の栽培に熱中。

収穫した野菜を、友人知人に毎日のように送っておられるそうです。
美味しい野菜のプレゼントに、みなさんとっても喜ばれるとのこと。
たった3カ月間でも、みるみる精悍な顔つきに変化してきました。

それにしても、ステージIVの肺がんが、抗がん剤治療を一度もせずに
漢方薬だけで、腫瘍マーカーが10分の1以下に低下するなんて。
もしかしたら、本人の免疫能が向上したのかもしれません。

がんの宣告と抗がん剤治療の勧めで、初診時は疲れ果てていました。
しかし私の一言でとっても安心され、普段はがん患者であることも
忘れて感謝して楽しみながら生活している、と笑って言われました。

サイコオンコロジー(精神腫瘍学)という研究分野があります。
精神状態(心の動き)とがんの関係を調べる学問です。
サイコオンコロジー的に言えば、ストレスが激減して免疫能が向上!?

真実はどうなのか、よく分かりません。
来月のデータも見てみないと、1ポイントだけではなんとも言えません。
しかしたった3カ月で、腫瘍マーカーが10分の1になってビックリ。

昨日は、エイプリルフールで驚かせて申し訳なかったのですが、
今日の話は本当です。
こんなことも現実にあるんだ、という程度に読み流していたければ幸いです。

◇                  ◇

私のこの連載は、記事ではなく、単なるブログ(日記)です。
日常診療で忙しく、医学論文は研究者のように読んでいません。
しかしこの患者さんのように、病院では診ない患者さんも診ています。

1例では医学的には何も言えません。
そんなこともあるのか、程度で結構です。
しかしその1例が、臨床現場ではとても大切です。

きちんとした医学記事を読みたい方は、優秀な医師や記者さんが書かれた
記事を読まれるでしょうから、私は私なりの現場の生の情報を書いています。
時にはお叱りを受けることもありますが、気にせず自由に書いてきました。

明日からしばらく、「がん医療、ここが分からない」シリーズで書いてみます。
よく患者さんから聞かれる質問に、私なりの言葉で応えてみたいと思います。

エビデンス関係なしの、町医者の独断と偏見に満ちた意見を書きます。
エビデンス重視の方は、長尾をパスしていただいた方がいいかと思います。