《1836》 超健康オタクな人が、それでもがんになる理由 [未分類]

がん医療、ここが分からないシリーズ・29

超健康オタクな人が、それでもがんになる理由

Q. 30年来の親友が胃がんになってしまい、ショックを受けています。

彼女は私と違い、几帳面で超真面目な性格。お酒もタバコもやらず、食事にも大変こだわっており、
お弁当はいつも玄米のおにぎりでした。

野菜を中心になるべく一日30品目を食べ、無添加の食材を取り寄せし、しかも、週に3回、仕事帰りに皇居を一周走って帰るという『健康オタク』のような人でした。

しかもご両親はご健在でがんではありません。

理不尽です。なぜこんなことが起きるのでしょうか?


A.
 本当に理不尽ですね。
   私の知りあいでも同じような人がいます。

   毎日、沢山のがん患者さんを診ていますが、
   がんになって当然(タバコや不摂生で)の人が多い一方、
   どう考えても理不尽な(何も悪いことをしていない)人もいます。

   いわゆる、がん家系であれば、少しは納得(?)できるかもしれません。
   しかし、この人のようにがん家系でもないのに、がんになった。

   すなわち、生活習慣でも遺伝でもないがん。
   多くはありませんが、たしかに存在します。

   がんは遺伝子の病気ですが、遺伝子に突然変異が起きたのでしょう。
   突然変異の理由は分かりません。

   若い女性のスキルス胃がんや子供のがん、そして若い方の白血病などの
   主治医もたくさんしてきましたが、やるせない思いです。

   世の中は、理不尽だらけだと思います。
   しかしそれを言うなら、地震や津波や噴火や地滑りでの死亡も理不尽です。

   結局、自分が今生きていること自体が奇跡に思えてきます。

   昨日、ある大学で医学部や経済学部の学生たちに「死の授業」をしました。
   先日、東京大学でやった授業の関西版です。

   関西では映像をたっぷり使って、学生たちを泣かせてやろうと企みました。
   終了後に学生たちと話すと「もう少しで泣くところだった」との感想に満足。

   学生たちに、今生きている奇跡を少しでも感じてほしかったのです。
   深夜に往診や看取りがあり、寝ないまま、また往診や大学の講義に明け暮れています。

   夕方、知人が淡路島の寿司屋さんに誘ってくれました。
   東京大学の安冨歩教授と車で明石大橋を渡りながら、綺麗な夕焼けを観ました。

   安冨教授から「長尾さんはハードワークなのによく死なないね」と言われました。
   「はあ、自分でもよく死なないものだと不思議に思います」と答えました。

   「医者は自分の体を大切にしないでしょう。そんな人間が患者を診てはいけない」
   とお叱りを受けながらも、淡路島の天然魚のお寿司を美味しくいただきました。

   帰りは明石大橋の夜景を眺めながら、穏やかなGWの幸せに浸っていました。
   満月に近い月と、綺麗な星たちに、生かしていただいていることを感謝しました。

   話が飛びましたね。
   それに、まだ死んでいないのに、死ぬ話ばかりして失礼しました。

   元気に生きていることも、がんになることも、結局はどちらも偶然だと感じています。
   そして今日も、尼崎の町を駆け巡って、在宅の患者さんに「元気」を配ってきます。