《1877》 ガリガリでも抗がん剤 【やめどき3】 [未分類]

在宅医療を受けているがん患者さんの多くは、筋肉量が減少しています。
そんな状態を“サルコペニア”と言います。

サルコペニア対策をしながら、最期まで抗がん剤治療を続けましょう!
そう患者さんを励ましてくれる頼もしい抗がん剤のお医者さんがいます。

ガリガリに痩せこけるとは、体重が15~20%以上減少した状態です。
それでも抗がん剤を続けましょうというお医者さんがいるのは現実です。

もう歩行もできない寝た切り状態でオムツをして一日中眠っている。
そんな状態に陥っていても、電話で抗がん剤治療に呼び出されます。

呼び出されたら家族は必死で連れていくしかありません。
それまでお世話になった医師からの呼び出しですから断れるわけがない。

主治医にしてみれば

  • ・最期まで抗がん剤で闘うことが医者の務め
  • ・ジーッと寝ているくらいならストレッチャーで病院に来たら
  •  いい気分転換になる
  • ・治療効果を見たい

などの思いがあるのでしょうか。
私には分かりませんが。

そんな患者がいるわけない!という医師は患者思いのお医者さんです。
いるもいないもそんな状況が特殊かもしれませんが私たちの現実です。

昨日1日だけでも、ガリガリでも抗がん剤が2人いました。
それがいい、悪いではなくただ現実を書いているだけです。

私にすれば、「もう許してあげたら」と心中思いますが、言い出せません。
抗がん剤については静観しながら、訪問看護師と緩和ケアに専念します。

患者さんはもはや意思表示すらできません。
それでもやっている人がいるのが現実です。

 


 

 

抗がん剤のやめどき その3  体重の減少

 体重とは、もっともわかりやすく、健康状態を反映する数値である。
 最近、医学の分野では〝サルコペニア〟という言葉が注目されている。サルコペニアとは筋肉量の減少のことだ。皆さんが忌み嫌う脂肪は減少してもいい。いや、したほうがいい。もちろん多すぎる場合だけの話だが。しかし筋肉量は、いかなる場合も減少しては困るのだ。なぜか? その前に、「老化とはなにか」について書いておこう。老化にはいろんな定義がある。年齢と見た目がかなり異なる人がいる。70歳でも50歳に見える人がいれば、その反対の人もいる。もっとも分かりやすい老化の定義は、髪の毛の減り具合でも、小じわの数でもなく、実は「筋肉量の減少」だと私は考える。抗がん剤治療中のサルコペニア対策に注目が集まりつつある。がん拠点病院では、栄養士や看護師が中心になって抗がん剤治療中の患者さんの食事内容にアドバイスを行うところも増えている。そうしたチームを、NST(栄養サポートチーム)という。イワシの脂であるEPAを豊富に含む、サルコペニアに有効であるとの報告がありそうした栄養剤が市販されている。さらにサルコペニアに対抗して筋肉量を維持するためのリハビリテーションも研究されている。とにかく、サルコペニアは抗がん剤治療の継続と大きく関係している。私は、NSTやリハビリは、病院内だけでなく自宅にあると考えている。地域と言ってもいい。尼崎在宅NST研究会をやっているのも、そのような考えからだ。サルコペニア対策の充実が今後のがん医療政策の大きな柱になるだろう。筋肉量をいかに維持するかが、抗がん剤治療を続ける上で重要である。
 しかし、抗がん剤治療を行うと、食欲不振は起きる。その他、味覚障害や、消化器がん手術をした方の場合は、そもそも消化器機能が低下しているので、今まで通り一日三食食事をするのが難しくなっていく。抗がん剤治療を続ければ続けるほど、体重が減少していくことは仕方のないことだと言わざるを得ない。体重だって、現状維持はあっても、増えていくことはまず無い。ただ、抗がん剤治療を続けていくうちに徐々に慣れてくる場合があり、気が付いたら何でも食べられるようになったという方もいる。その順応があるからこそ、抗がん剤治療が続けることができる、とも言えよう。
 がん患者さんの場合、あっという間に、元の体重から10%程度減ることもよくある。急激に体重が減るとなぜ良くないのか? それは、免疫機能、抵抗力が落ちるからだ。抗がん剤治療中は、ただでさえ白血球をはじめ免疫を担当する兵隊が減少している。抵抗力が低下すると肺炎を起こしやすくなる。また、傷ができても治りにくくなる。だから、一日三食でなくともいい。食べられそうだと思う時に、少しでもいいから栄養のあるものを食べてほしい。
 
 激しい減少のときは治療中止を言い渡されることも

 抗がん剤治療を継続する際の体重の減少は、重要な指標である。体重が極端に減少すれば、抗がん剤治療をいったん休憩ないし、中止したほうがいい。これは抗がん治療の大原則である。しかし現実には、ガリガリに痩せこけながらも抗がん剤治療を続けている人を見かける。がんセンターの専門医がやっていることに、町医者が横やりを入れるのは少々気が引けるが見るに見かねて、助言をすることもある。
 その方は、身長が170㎝で、元々70㎏もあった体重が、たった3カ月で55㎏まで減少していた。約20%も体重が減少していたので、さすがに抗がん剤の一時中止を指示して、がんセンターの主治医に手紙を書いた。一般的には、10%の体重減少が、中止の一つの目安とはされるが、私の経験からは、15%くらいかなと感じている。また数字そのものよりも、減少のスピードをどう考えるかも、重要だろう。
 
 鈴木さんの場合、手術前体重が69kgだったが、抗がん剤治療中には60㎏を切ってしまった。数字の上では15%近く減少したが、続けたいという気力と体力があったため、こちらから中止を言い渡すことはなかった。しかし、一年間の治療であれ以上体重が減少していたら、私は中止を勧めていただろう。
 もちろんいったん中断ないしお休みをして、体重の回復を待ってから抗がん剤を再開することもあるだろう。あるいは、そのまま中止してしまうこともあるだろう。主治医や、かかりつけ医と十分に相談しながら、後悔の無い選択をして欲しい。体重の減少率は、その人の生命力を反映していると思う。

 というわけで、抗がん剤のやめどき、その3は、治療中に元の体重から15%以上減少したとき、である。

【「抗がん剤 10のやめどき」(ブックマン社)からの転載】
※ アピタル編集部で一部手を加えています