《1915》 第2世代の分子標的薬、ザーコリとアレセンサ [未分類]

先日、乳がんの抗がん剤治療で98%の人に脱毛が起きるという報道を見ました。
なんとなく脱毛が多いのは誰でも知っていますが、98%とは凄い数字ですね。

この数字を聞いただけで「抗がん剤は絶対イヤだ」と思った方もいるでしょう。
古典的な抗がん剤は「毒」ですから、正常細胞もやられて様々な副作用が起きます。

抗がん剤の副作用がさまざまな痛み、特に精神的な痛みを引き起こしている場合もある。
緩和医療はがんの痛みだけでなく、がん治療によって起こる痛みにも対応するものです。

予想される副作用に予め対策をしておく「支持療法」の進歩も著しい。
ムカムカや嘔吐に対する薬も進歩しましたが、食欲不振への抜本対策はまだ難しいです。

最近は、がん細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」の時代になり、当院の患者さんでも
常に何人かが分子標的薬を飲まれているくらい、かなり一般的な薬になりました。

分子標的薬は、劇的に効く人がいる一方、あまり効いていない印象の人もいます。
副作用があまりない人もいますが、酷い皮膚症状に苦しむ人もおられます。

抗がん剤というと最初から拒否する人もいますが、本当に希望のもてる分子標的薬が続々と
登場していることも紹介させてください。

間野博行・東京大教授らによるALK阻害薬(一般名:クリゾチニブ、商品名:ザーコリ)
が登場し、あまりに治療成績がいいので、第2世代の分子標的薬とも呼ばれています。

肺がんの患者さんのうち5%の人が、EML4-ALK融合遺伝子という変異遺伝子を持っています。
遺伝子検査で、この遺伝子が陽性の患者さん(がんを切除不能な進行・再発の非小細胞がんが対象)
には、このALK阻害薬を投与すると、劇的に効く人がかなりの確率でいることがわかっています。

間野教授が2008年に最初にザーコリを投与したのは、28歳の肺がんの男性でした。
投与前は両肺に胸水が溜まっていて、最大量の酵素を吸わないと座ることすらできませんでした。

食道周囲のリンパ節が腫れて、食道が圧迫され食事も摂れない状況だったそうですが、
ザーコリ投与の2週間後に奇跡ともいっていいくらいの変化が起こりました。

酸素が不要になり、病院の周囲を散歩できたそうです。
現在、ザーコリの奏効率は6割と言われています。

ちなみにザーコリは、たった4年間で創薬ができたという記録も作りました。

2007年に間野教授らが遺伝子の発見をNatureに発表し、2011年8月に米国ファイザー社の薬が
承認され、2012年3月に日本でも承認がおりました。世界最速で世に出た分子標的薬でもあります。

そして2014年9月時点で、世界で8種類ものALK阻害薬が臨床試験に入っているそうです。
2番目のALK阻害薬であるアレセンサ(中外製薬)という薬の奏効率は93.5%と、驚くべき数字です。

科学や医学の発達は、目をみはるものがあります。
全ての人がその恩恵に預かれるわけではありませんが、知らないと損をする人がいるのも事実です。

医学や医療を全否定しているだけでは、損をすることがあります。
常に最新情報を集めて、医学の進歩の恩恵を受けるチャンスを逃さない賢い患者になってください。

PS)

今日は、東京で開催されている日本在宅医療学会で講演しています。