《1931》 自力で脱出した人だけ願いがかなう? [未分類]

がん拠点病院の地域連携室から連絡がありました。
在宅療養を希望している末期がんの人がいるので来て欲しいとのこと。

退院前カンファレンスをやってから、試験外泊をやってみて、もし
不安がなければ退院を許可して、在宅医療を頼もうと思っていると。

不安がなければ、って・・・
病状が悪ければ、不安があるのが当たり前。

余命2週間の人にそんな退院調整をやっていたら帰れないに決まっています。
しかし病院は診療報酬を取るために、こうした無駄な作業に2週間を費やす。

家族に「こうしなければ退院できない」という刷りこみをしているので
退院前カンファレンスに呼ばれて町医者が何か発言しようが結局無意味。

ではどうしたら家に帰れるの?と相談に来る家族には、言うことはひとつだけ。
「自力で脱出するしか道はありませんよ」

がん患者さんは病院の所有物ではありません。
もちろん、かかりつけ医や在宅医の所有物でもありません。

がん患者さんは医療の内容や、療養の場を選ぶ権利を持っています。
しかし最期の最期まで病院のいいなりになっている人もおられます。

それで本人や家族が満足であればいいのですが、もし願いが叶わなければ
後で、文句や恨みを言いに来られる家族がたくさんおられます。

文句があるのなら病院に言ってほしいのですが、さすがに言えないのか、
話しをしやすい町医者のほうにどうしても言い、我々は聞き役に回ります。

もし在宅医療を希望するならば、ふだんから病院の先生にそう伝えたほうがいい。
イザとなってからと思っていると、最期までズルズルと行くのが末期がんです。

「じゃあ、患者はどうすればいいのですか?」
「結局、自力で脱出した人だけが願いが叶うというのですか?」

そんな質問を受けることがありますが、自分でしっかり意思表示をすべきです。
よほどはっきり言わないと病院の先生や地域連携室のスタッフに伝わりません。

彼らは、在宅医療を一度も診たこともないし、まして看取りの現場を知りません。
想像だけで勝手なことを言っているとしか思えない場合がよくあります。

それでいて、一番肝心な介護保険の申請すら忘れている場合もよくあります。
ですから患者さんのほうが賢くなって、自分達で先回りするしかないのです。

がん拠点病院は、すばらしいがんの医療を行っています。
しかし不幸にしてもう助からない状態になった人に対しては興味がないようです。

もちろんそうではないがん拠点病院やそこで働くスタッフもたくさんいます。
しかし私が指摘しているようなスタッフもたくさんいて、患者さんは泣いています。

私は、そうした患者さんに近藤誠先生が書かれた「病院に殺される」などの本を、
差しあげることもあります。

それくらい強烈なメッセージで書かないと彷徨える患者さんには伝わらないのです。

私の近著は決して近藤誠先生が書かれている内容を全否定するものではありません。

近藤先生ががんの治療期と終末期を混同されていることを、具体的に指摘したまでです。

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)