《1964》 80歳台のがん治療 [未分類]

がんは老化現象であるとも言われています。
老化に伴い、遺伝子のミスコピーも増えるからです。

実際、高齢者のがんに関する相談も増えています。
この場合の高齢者とは、80歳代のことです。

65歳では高齢者とは言えません。
75歳でも高齢者と言えない元気な人が沢山います。

今日の話は、80歳ないし85歳以上の方の話だと思ってください。
何か自覚症状が出て病院で検査したら、進行がんが見つかったというケース。

本人とご家族が悩んだ果てに相談に来られることが時々あります。
私は、迷うこともあるし、ある程度ハッキリ申し上げる場合もあります。

年齢以上に、元気かどうか、要介護者かどうか、が第一のチェックポイント。
次に、がんができた臓器と進行度(ステージ)が、第二のチェックポイント。

そして、本人の生き方や、希望や、哲学が、第三のチェックポイントです。
これらを総合して、本人と家族の顔色をソッと伺いならら助言をはじめます。

ステージⅣの膵臓がんや食道がんだったら、何もしないことを勧めるでしょう。
しかしステージⅣの前立腺がんや乳がんだったら治療を勧めるかもしれません。

ホルモン治療のことです。
またステージⅣの大腸がんでも腸閉塞が懸念されるなら、手術を勧めるでしょう。

そもそも80歳台といえば、余命も限られています。
男性なら既に平均寿命が超えています。

女性でも平均寿命から逆算したら、余命は5年です。
平均寿命から言っても、5年生存率は、かなり低い。

80歳台のがん治療はなんのためにあるのでしょうか?
もちろん与えられた余命を楽しく笑って全うするためです。

だからさきほど、ステージⅣの前立腺がんのことを書きましたが、もし
1カ月毎日、放射線治療に通院せよとの命令が下っていたら、とても迷います。

がん治療には必ず、なんらかの〝犠牲〟が伴います。
もし入院したら、その間だけでも貴重な人生最期の時間を奪われます。

もし抗がん剤で食べられない時間があれば、その間、〝食べる〟喜びを失います。
そしてたとえ放射線治療であっても、通院の手間を想像すると躊躇します。

実際には、ステージⅠやⅡのがんも見つかります。
たとえば、早期胃がんや早期大腸がんです。

内視鏡で完治可能であると判断される場合でも、とっても悩みます。
たった数日間の入院で認知症が出たり、寝たきりになる可能性があるからです。

もし治療をしなくても少なくとも3年くらいは生きられると思われるならば
「もういいじゃないかな」という判断をする場合もあります。

しかし病院の専門医が、強く〝治療〟を勧めた場合に、とても困ります。
その専門医の顔を潰しては申し訳ないからです。

でも、目の前の本人の尊厳も損ねては本末転倒です。
とっても迷って、その日に結論が出ない時もあります。

あるいは、「やらないほうがいいな」と思った時は、診察室に常備してある
近藤誠医師が書かれた「がん放置療法のすすめ」をお貸しすることもあります。

参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社)