《0246》 消化管に穴があいていた [未分類]

15年前、開業間もないころです。
ある高齢者の在宅医療を依頼されました。
寝たきりですが、状態は比較的安定していました。
週1回訪問して、主に便秘の管理をしていました。

当時は介護保険もなく、訪問看護師はいませんでした。
何から何まで、自分1人で行っていました。
ある日、熱が出たと往診を依頼されました。

風邪だろうと思い、抗生剤の点滴をしてお薬を出しました。
しかし、翌日もその翌日も高熱が続くと電話がかかりました。
丁寧に診察しましたが、熱の原因がよく分かりませんでした。

翌朝、採血結果を見て驚きました。
白血球が2万、CRPという炎症反応が20もありました。
驚いて、嫌がる本人を説得して、病院に入院させました。

レントゲンで、消化管穿孔が判明しました。
直ちに緊急手術が行われました。
穿孔部位は、直腸潰瘍でした。

直腸潰瘍は、便秘が原因だったのでしょう。
術後の経過が悪く、約1カ月後、その患者さんは
その病院で帰らぬ人になりました。

熱は、穿孔の結果の腹膜炎が原因だった。
もし、病院に送るタイミングがあと2日早かったら、
結果が違っていた? 判断が甘かったのだ!

そんな思いが、今も頭から離れません。
御家族から苦情は言われませんでしたが、これは、
自分の中では、「誤診」というより「医療ミス」。

高齢者は、病気になっても症状が乏しいことがあります。
熱の出ない肺炎、痛みのない消化管穿孔・・・

現実の高齢者医療、在宅医療は、教科書通りにはいきません。
一見平穏に見えても、緊張感を持っていなければ失敗します。
いや、いくら一生懸命しても、失敗することが常にあり得ます。

この患者さんのお家の前を通る度に、いまも胸が痛みます。