末期がん患者さんに採血検査をしました。
患者さん自身が検査を希望されたのです。
こちらからはあまり積極的にはしません。
やはり、貧血を認めました。
ヘモグロビン値が、6でした。
1ケ月間で4も減少していました。
「研修医君、どうしたらいい?」
「長尾先生、胃カメラでしょうか」
たしかに胃からの出血が懸念されます。
患者さんに胃カメラをするか聞いてみました。
すると「絶対に嫌だ」と言われました。
「研修医君、じゃあどうしようか?」
NSAIDsという痛み止めを中止しました。
胃薬を飲んでいても胃潰瘍を起こすことがある。
これまで苦い経験を一杯してきました。
末期がん状態は、出血し易い状態になります。
鼻や口や消化管からジワジワ出血することも多い。
そんなジワジワ出血かもしれません。
元気な人がいきなりヘモグロビンが6になったら
ショック状態になるため輸血することもあります。
しかし末期がんでは輸血することはまずありません。
末期がんの貧血は悪いことばかりとは限りません。
運動量が少ないのでヘモグロビンが少なくても支障がない。
がん細胞にも酸素が行かないため、成長しにくい。
体全体が省エネモードに入ることはむしろ良いことです。
以前、脱水は友と書きましたが、貧血も友です。
貧血があると、新たに出血する確率も減ります。
慌てて輸血をすると、水圧が上がりどこからか出血します。
水圧が低い状態だと血液が溢れだす勢いも無くなるのです。
末期がんにゆるやかに来る貧血は、むしろ自然なことです。
「でも長尾先生、ヘモグロビンが4になったらどうします?」
研修医君は、怖がっています。
患者さんは、平然としています。
「患者さんは何とも無いと言っているよ。
ヘモグロビン4になった時に聞いてみようか」
実際、その後ヘモグロビンが4になりましたが、
患者さんは特に自覚症状に変わりがありません。
多少青白い顔ですが痛みも無く静かに過ごせています。
「じゃあ、長尾先生は、自宅で輸血をすることは
絶対に無いのですか?」
研修医君はやけに貧血に拘っています。
「実は輸血することもあるんだよ・・・」
(続く)