《0760》 慌てなくていい貧血 [未分類]

末期がん患者さんに採血検査をしました。

患者さん自身が検査を希望されたのです。

こちらからはあまり積極的にはしません。

 

やはり、貧血を認めました。

ヘモグロビン値が、6でした。

1ケ月間で4も減少していました。

 

「研修医君、どうしたらいい?」

 

「長尾先生、胃カメラでしょうか」

 

たしかに胃からの出血が懸念されます。

患者さんに胃カメラをするか聞いてみました。

すると「絶対に嫌だ」と言われました。

 

「研修医君、じゃあどうしようか?」

 

NSAIDsという痛み止めを中止しました。

胃薬を飲んでいても胃潰瘍を起こすことがある。

これまで苦い経験を一杯してきました。

 

末期がん状態は、出血し易い状態になります。

鼻や口や消化管からジワジワ出血することも多い。

そんなジワジワ出血かもしれません。

 

元気な人がいきなりヘモグロビンが6になったら

ショック状態になるため輸血することもあります。

しかし末期がんでは輸血することはまずありません。

 

末期がんの貧血は悪いことばかりとは限りません。

運動量が少ないのでヘモグロビンが少なくても支障がない。

がん細胞にも酸素が行かないため、成長しにくい。

 

体全体が省エネモードに入ることはむしろ良いことです。

以前、脱水は友と書きましたが、貧血も友です。

貧血があると、新たに出血する確率も減ります。

 

慌てて輸血をすると、水圧が上がりどこからか出血します。

水圧が低い状態だと血液が溢れだす勢いも無くなるのです。

末期がんにゆるやかに来る貧血は、むしろ自然なことです。

 

「でも長尾先生、ヘモグロビンが4になったらどうします?」

 

研修医君は、怖がっています。

患者さんは、平然としています。

 

「患者さんは何とも無いと言っているよ。

 ヘモグロビン4になった時に聞いてみようか」

 

実際、その後ヘモグロビンが4になりましたが、

患者さんは特に自覚症状に変わりがありません。

多少青白い顔ですが痛みも無く静かに過ごせています。

 

「じゃあ、長尾先生は、自宅で輸血をすることは

 絶対に無いのですか?」

 

研修医君はやけに貧血に拘っています。

 

「実は輸血することもあるんだよ・・・」

 

(続く)